最近よく聞く「STEM教育」っていったいどんな教育?

STEM教育とは何か

日本では少し前から「理数離れ」が深刻化しています。20年ほど前から理数離れの危険性は指摘されてきました。
みなさんは学生時代、理数系は得意でしたか?女性とくらべ、男性は理数系が得意な人が若干多いような気もしますが、それでも「理数系はどうも苦手」という人は少なくないようです。
私が通っていた高校のクラスは文系と理系とで分けられていました。9クラスあった当時、理系クラスはたった2クラスしかありませんでした。

 

中学校までは理科も数学も得意で好きだった、という人も高校に入るといつの間にか苦手な教科になってしまった、という話もよく聞きます。今思えば、高校の授業はそれぞれの教科が中学校よりもさらに深掘りされるため、理数系、文系に分けられます。どちらに興味があるのか、どちらが得意なのか分からない人はとりあえず文系にしてしまい、そのまま理数系から遠のいていく人も多いように思います。

私のように、理系がとても興味深い!という人ももちろんいます。しかし、相対的に見るとやはり文系が得意な人よりも、理系が得意な人は少ない傾向にあるようです。
また、理系分野の研究者に目を向けてみると、多くのノーベル賞受賞者が外国の大学に籍を置いていることに気付きます。つまり、日本から頭脳や技術が外国に流出してしまっているというわけです。

 

 

そこで日本でも「STEM教育」が推進されるようになってきました。簡単に言えば「理数系を伸ばす教育」です。
スーパーサイエンススクールという、理数系科目を重点的に教育する高校も文部科学省が指定するようになって久しいのですが、それだけでは間に合わなくなっているというのが現状でしょう。

ではSTEMの内容について詳しくご紹介します。
STEMとは理数系の「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Math(数学)」の頭文字を組み合わせた、アメリカの造語です。それぞれ、理数系の柱となっている学問ですね。
STEM教育は、こうした理数系の4つの学問に重点を置き、「理数系の学問は将来役に立つので積極的に学ぼう」という学生を増やし、トップレベルの人材層を厚く、さらにレベルアップしていくという教育方針なのです。

 

これから先は理工系の知識が重要になってくる

今後の社会では、理工系の知識が重視されるようになってきます。私たちの社会には、すでにさまざまな技術が浸透していますよね。いまやコンピュータの助けなくしては、自分の預貯金も引き出せませんし、電車に乗ることもできません。
今後はもっとコンピュータやAIが社会に進出してくると言われています。数十年の間に、今存在している職業のうちいくつかは消滅してしまうとも言われています。
もはや「私は文系だから関係ない」と他人のフリをしていられる時代ではないのです。スマホはもう体の一部です。

 

 

こうしたことが、今後さまざまな分野で起きてくることは間違いありません。どんな職場にもコンピュータやAIは進出していきます。逆にどんな仕事でも人間の創造性をはじめ、「If」の可能性を幾通りも考え出す想像力や仮説力が、不要とされることはありません。今後は、すべての人がプログラミングに関する知識や技術力をある程度は備え、理系と文系の壁を今よりもぐんぐん低くして、互いにより深く理解し影響しあってゆく必要があると考えられます。

2035年には、AIの進出によって先進12か国の経済成長率が倍増すると言われています。AIの発達で人間の働き方ががらりと変わり、人間の知能と機械の知能を融合させることが必要になると考えられています。こうした働き方の激変がやってくる前に、子どもたちの教育から見直してゆく必要があることは明白です。

 

 

子ども達の未来とSTEM教育の関係性とは?

私たちは、まるで血液型や星座占いを語るような軽さで「理系」と「文系」を語っていないでしょうか。「あの人は理系だからリクツっぽい」「あの子はリケジョだからクールそう」「あの人は文系だから話が長くてくどい」「あの子は文系だから文章がわかりやすい」…

そんなの性格や個人の資質の問題、と言いたくなるようなことを、「理系だから」「文系だから」でひとくくりにしてしまうイメージが、無いとはいえませんよね。現にお医者様でありながら小説を書いている方もいますし、文系のお仕事に従事しながら科学や数学が趣味という人もいます。

もっとも避けるべきなのは、文系の人と理系の人が互いの間に壁を作ってしまうことです。考え方やイメージだけではなく、社会に出てもっとも大きな壁となって立ちはだかるのが「知識の差」です。
社会に出れば、企業にはさまざまな分野の勉強をしてきた人が集まっています。理系の人もいれば文系の人もいます。同じ仕事を任されたとき、適材適所で得意な分野を担って行けばよいと考えるかもしれませんが、それだけではうまくコミュニケーションが図れないこともしばしば起こります。

たとえば、理系の人がプログラミングについて何か課題を抱えていても、そのことを知識のない人に相談することはできませんよね。互いの間にプログラミングに関する知識の高い壁があり、理解してもらうまで長い時間がかかるからです。そのため、理系の人が「文系の人間はITの会社には必要ない」、文系の人が「理系の人の説明はわかりづらい」と誤解してしまう事もあり得ます。互いに理解と共感が無ければ、仕事はうまく進みませんし、魅力的で他の企業をうならせるプレゼンはできません。

本来なら、理系の人も文系の人もそれぞれの得意分野で力を充分に発揮することで、仕事は2層も3層も厚くおもしろいものになるはずです。でもそうならないのは、互いのコミュニケーションがうまくいっていないからです。
だからこそ、これからの子どもたちにはSTEM教育が非常に重要になるのです。すべての子どもたちはもともと、高い創造性や想像力を持っています。これまでは文系分野で主に磨かれてきたこの力を、これからは理系分野でもそれぞれ磨いていく必要があります。そうすることで、子どもたちみんなに論理的なものの考え方や、「AをこうするとBになるのではないか」と仮想してみる仮説力、仮説を実証するために手順を順序立てて組み立てていく力、失敗を解析して再びトライしていく力などが身につきます。

理系の人間も文系の人間も、こうしたスキルは社会で必ず必要となります。また、いっそう広い世界に興味を持つきっかけにもなり得ます。
さらに多くの子どもたちが小さなころからこうしたスキルを実践で学ぶ中で、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力も養われていくと考えられます。こうした理数系の素地を持った子どもがいずれ文系のスペシャリストになれば、理系のスペシャリストと同等のコミュニケーションを取りながら、より質の高い仕事ができるようになるのではないでしょうか。もちろん、これまでよりも理数系を得意とするハイレベルな人々の層は厚く、よりレベルが高くなることは間違いありません。互いの敷居が低くなることで、自分の持っている能力をより発揮しやすい環境を作り出せるようになるのです。より広い分野で多くの人々が活躍できるようになるでしょう。

 

 

 

先進国の中では少し出遅れている日本のSTEM教育

ニュースなどでは、日本の学力低下や海外の名門大学への留学者数の少なさなどが問題視されています。では実際にどの程度日本の学力が劣っているかというと、全体的に見たところは特に劣っているわけではありません。非常に優れた頭脳を持つ学生や研究者のいる、アメリカやロシア・中国やインドといった国々では、すべての人が同等の教育を受けられる水準まで社会制度が安定的ではありません。そこで、「平均値」で比べると、義務教育の水準が高い日本はまだ世界のトップレベルにいられるのです。

しかし、「トップクラスにいる一握りの人間の学力」という点では、先進国の中でも若干遅れを取っているといわれています。特に理数科目ではそれが顕著になります。それにともない、諸外国ではすでにスタートして久しいSTEM教育も、日本は出遅れてしまっているのです。

STEM教育は、2020年からスタートするプログラミング教育と連動して注目され始めています。プログラミング教育とは2020年から算数や理科・総合をはじめ、音楽や図工などの教科で取り入れられるようになるもので、コンピュータのプログラミングを通して「プログラミング的思考力」を伸ばしていく教育方針のことです。
プログラミングというとSTEM教育とまったく同じ内容のように思われますが、それだけではありません。プログラミング教育はコンピュータのプログラミングだけを行うわけではなく、子どもの持つさまざまな可能性を磨き、伸ばすことに重点が置かれているのです。

たとえばロボットのプログラミングを行う中で創造性や想像力、仮説力、論理的な思考力などを養います。多くの子どもたちと意見交換をしながら行えば、プレゼン能力も高まっていきます。また人間として社会を生き抜くのに必要な粘り強さを生む、トライ&エラーをたくさん経験することになります。
さらにSTEM教育と連動させることで、理数系の面白さや工学・技術の楽しさなどがより身近になっていきますよね。「普通の勉強だけでも大変なのについていけるかしら」「親もパソコンのことがまったくわからないのに」と不安な親御さんは、街のロボット教室を活用してみてはいかがでしょうか。ロボット教室では学校でも多く利用されると考えられるレゴ社のロボットを自ら作り、プログラミングも初歩的なものから高度なものまで学ぶことができます。
最終的には自分だけのゲームを開発することも可能です。ロボテックのような教室で基礎からプログラミングを学び、今後の優れた人材として活躍できる子どもに育てたいですね。

 

とーたか

とーたか

1975年佐賀県生まれ。エンジニアを目指し工業高校へ行くものの、なぜかデザインの世界へ寄り道し1994年に桑沢デザイン研究所へ。 この時ゼミとして受けていた授業の中で「インターネットというモノがこれからくるぞ」ということを知る。 2003年インターネットの世界へ。当時アニメーションを制作する際に使われたFlashと呼ばれるソフトで「ActionScript」というプログラミング言語に始めて触れ、プログラムの面白さを知ることに。 2005年に浜松町のWeb制作会社に勤務。10年以上にわたりウェブディレクターとして大手中小企業様のWebサイトを手がける。 「クリエイティブ力」の大切さと重要性に気づき、2017年に未来のエンジニアを育てる「ロボット教室のrobotec」を開校。