STEM教育とプログラミング教室やロボット教室の関係性は?これからの子ども達に必要なスキルとは?

AIと2035年(17年後)の経済予測から理系のスキルが求められている

2016年に、大手コンサルティング企業のアクセンチュア株式会社が、「AIと労働生産性に関する調査結果」を発表しました。これは、AI(人工知能)が経済・市場に浸透していった場合、2035年にはどのように労働生産性に影響を及ぼしているかという予測です。この調査は、世界経済の先進国、世界総生産の50%を占める12か国について行われました。アメリカをはじめフィンランドやイギリス・ドイツ・スウェーデンなどのほか、日本も入っています。

この調査で、日本は現状を維持するベースラインシナリオでは成長率が0.8%と見通されているところ、AIが浸透することを組み込んだ「AIシナリオ」では2.7%になると予想されました。これはベースラインのほぼ3倍にあたるという高い成長率になります。先進国すべてを総合すると倍増すると言われ、労働生産性は最大で40%向上するそうです。
AIが社会に浸透してゆくと、人々の仕事との付き合い方が大きく変化していきます。また人間と機械の間にも、これまでとは違った関係性が生まれます。人間の働き方は劇的に変化し、これまでにあった仕事が無くなったり、新しい技術を持った機械を操作したりすることもあるでしょう。人材不足も解消されると言われていますが、それは裏を返せば職を失ってしまう人々が生まれる可能性もあるということです。実際に、今後20年の間に新しく誕生する職業がある一方、無くなってしまう既存の職業もあるのではないかと考えられています。

今後の経済予測を見てみると、「AI」がどれほど大きく世界経済に影響を及ぼすかがわかります。つまり、今後はAIに関わる職業に優秀な人材が求められてゆくということでしょう。
しかし、日本はここ数十年「理系離れ」が深刻化しています。理数系を専門的に学びたいという学生が減ったり、専門分野にかたよりが出たりしているのです。これからの日本経済を支え、子どもたちが夢を持てる社会にしてゆくためには、理数系スキルを持った人材をもっと育ててゆく必要があることは明白なのに、これは困った事態と言えますよね。

 

これまでの教育にプラスして科学や工学の教育が必要になってきている

理数系離れを危惧して、文部科学省はスーパーサイエンススクール制度などを取り入れてきました。しかし、小学生や中学生の間でも「算数はキライ」「理科がつまらない」という声は広がっています。さらにゆとり教育からの改変や、学級崩壊問題など、教育の現場は何かと混乱が続いています。このままでいいのかなと、不安に感じている親御さんも少なくないのではないでしょうか。

今後の社会経済の成長率を考えると、我が子たちにも理数系のスキルを身につけて欲しいものですよね。そのためには、これまでの教育だけではとても足りません。そこに科学や工学といった教育をプラスしていく必要があるのです。

日本では2020年の学習指導要領改訂で、プログラミング教育のスタートが決まりました。プログラミング教育とは、小学校の総合や算数・理科をはじめ、子どもたちの興味を引きやすい音楽や図工の授業を通して、コンピュータのプログラミングを学び、AI技術が成熟してゆく社会への順応を目指すものです。

また、STEM教育にも注目が集まっています。STEMとは「Science(科学)」、「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字をとったもので、アメリカで始まった理数系・技術工学系に重点を置く教育方針のことです。
現在の日本の教育で理数系と文系とに道が分かれるのは、高校に入ってからですね。でも実は、子どもの中の可能性の芽の行く先は、かなり早い段階で分かれてしまっていることが多いのです。

幼少期から小学校低学年までの好奇心旺盛な時期に、理数系・技術工学系に対して「おもしろいな」「すごいな」といった好奇心を持ったかどうかが、その後の子どもの理数系・技術工学系に対する向き合い方に大きな影響を与えると言われているのです。
子どもの「おもしろい」という気持ちや、好奇心の持つ力は大きなものです。子どもはおもしろい、楽しいと感じたことに対して、情熱と探求心を持って向き合います。大人顔負けの集中力や発想力を発揮し、自分なりに研究を続けてみたりします。

逆に一度「つまらない」と思わせてしまうと、興味を持たせることはとても難しいものです。幼いころに理数系・技術工学系に対して「おもしろい!」という体験をさせることが、とても重要だということは、アメリカのSTEM教育でも言われてきたポイントです。

 

1990年代にはすでにSTEM教育という考え方があった

STEM教育の原型は、1990年代にさかのぼります。アメリカ国立科学財団が提唱し、近年ではオバマ元大統領が力を入れていました。これまでは数学や理科の中で少ししか取り上げられなかった技術工学系分野の要素を拡大したり、小学生の頃から授業に取り入れたりといった取り組みがなされてきました。
理数系・技術工学系の教師の充実も図られています。また、一部の優秀な生徒だけに教育を行うのではなく、幼少期からすべての子どもたちに対してSTEM教育は行われます。幼少期に行われるSTEM教育の意味が大きいことが、すでに理解されているからです。

こうした取り組みが重視されるようになった背景には、ハイテクやITに関する高い技術を持った人材の不足があります。人材不足の裏側には、当然教育の不備がありますよね。そんな中で、より高いスキルを身につけた若い世代を育成することは、アメリカにとって急務だったのです。またSTEM教育という言葉が生まれた時期には、まだSTEMに関する教科を統合的に学習できるカリキュラムが組まれていませんでした。そこで教育現場の改革を行い、多くの人々が理数系・技術工学系の基礎を幼いころからしっかり学ぶことができるように工夫がなされてきました。

こうして理数系・技術工学系の教育を手厚く行い、高いスキルを持つ若い世代を継続的に排出することで、アメリカの高い先進技術力は支えられているのです。
現在では、STEM教育は世界のさまざまな地域に広がっています。そして理数系に弱いと言われる日本でも、プログラミング教育を通してSTEM教育が見直されています。

 

先進国アメリカで行われているSTEM教育とはどんな内容?

それでは、STEM教育の先進国・アメリカではどんな内容の教育が行われているのでしょうか。

アメリカでは、先ほども紹介したように早い段階から科学・技術・工学・数学を重点的に学べるカリキュラムが組まれています。科学や数学といった紋切り型の勉強法ではなく、たとえば私たちの健康維持や病気の治療に、どういったテクノロジーが使われているのかを実践で学びます。
実際に心拍数などが計測できるロボットを制作し、その上で自分たちが学んでいるSTEMがどのように生かされているのかを学んだり、プログラミングやパソコンの操作・基礎的な電子工学なども同時に学べるようになっています。マサチューセッツ工科大学が開発したScratchなどのソフトや、レゴ社と共同開発したロボット、3Dプリンターなど、実際にプログラミングや加工が行える先端技術を利用する機会もたくさんあります。

こうしたプロセスでSTEMを学んだ子どもたちは、自分たちが学んだ知識が社会でどう生きるのかをよく理解しています。
そのため、「何のために数学なんて勉強しなきゃならないの」といった、日本の子どもたちがよく口にする疑問に対する答えを、アメリカの子どもたちは自身の中に持っています。
親の世代もこうした教育を受けている人々が増えているため、子どもたちに対するSTEM教育に関心や理解が高く、家族で子どもの成長をバックアップすることが可能になっているのです。

2035年の先進国の経済成長率に関する調査を行ったアクセンチュア株式会社では、AIの登場は、1990年代後半にコンピュータ技術の躍進によって世の中がガラリと変わってしまったのと同じくらいの影響を、ビジネスに与えると考えています。1990年代後半のコンピュータの躍進は、世界中のオフィスや家庭にパソコンを普及させ、ひとりに一台という勢いでスマートフォンやタブレットを広めました。ビッグバンとも呼べるほどの変化でしたが、これと同じような変化が再び世界に訪れると予測しているのです。

AI技術は今後どんどん成長し、成熟していきます。アメリカでSTEM教育が盛んに行われているのは、国家として世界の最先端をゆく科学力を持ち、それを維持するためにも絶対に必要なプロセスだからと言えます。
日本では他の先進国と比べ、こうした取り組みが何歩も遅れていることは否めません。

 

日本で始まるプログラミング教育と、子どもたちに期待されるスキル

だからこそ、2020年にスタートするプログラミング教育は非常に重要といえます。プログラミングという教科を設けるのではなく、数学や理科・総合学習など、広い分野でコンピュータについての知識や、論理的な思考力、仮説力、手順を考え順序良く組み立てる能力、クリエイティブな能力、プレゼンテーション能力などを伸ばすことが期待されています。
しかし、この大きな改革に教育現場が追いついているかと問われると、少々疑問が残ります。同じ時期に英語の新たなカリキュラムもスタートするため、教育現場は教師や時間の確保に追われているからです。

そこで今注目されているのが、パソコンの操作やコンピュータの知識、工学・技術などをSTEM教育のように総合的カリキュラムで学べるロボット教室です。

ロボテックでは少人数のチームでロボット作りに取り組み、その中でプログラミングやタブレットによるアプリ操作などの技術を学びます。
さらに子どもたちのチーム内で話しあい、協力することで仮説力やプレゼン能力、コミュニケーション能力も培ってゆくことができます。
アクセンチュア株式会社が予測した17年後の未来には、ランドセルを背負った子どもたちも第一線で働いている年齢となっていることでしょう。もう親になって子どもの教育に頭を悩ませている子もいるかもしれません。
可愛い子どもたちに豊かで希望に満ちた未来を引き継ぐためにも、新しい「教育」という財産を一刻も早く与えてあげたいですね。

 

とーたか博士

とーたか博士

1975年佐賀県生まれ。 2003年インターネットの世界へ。当時アニメーションを制作する際に使われたFlashで「ActionScript」というプログラミング言語に触れ、プログラムの面白さを知ることに。 2005年に浜松町のWeb制作会社に勤務。10年以上にわたりウェブディレクターとして大手中小企業様のWebサイトを手がける。 「クリエイティブ力」の大切さと重要性に気づき、2017年に未来のエンジニアを育てる「ロボット教室のrobotec」を開校。